
M&A(エムアンドエー)が関わるローン制度を解説
M&Aの資金調達の形態はさまざまです。
低リスクで融資を受けられるシニアローンや、緊急で融資が必要な時に利用できるブリッジローン、債務者の責任の範囲を限定的にできるノンリコースローンなどがあります。
それぞれの資金調達の特性は異なり、それぞれメリットとデメリットを持っています。
今回は特にローン制度にスポットを当て、それぞれの特徴について徹底的に解説します。
シニアローン
シニアローンとは、通常貸付金のことです。
シニアローンで融資を受けると、返済の優先順位が高くしなければなりません。そのためローンは返済期間は比較的短くなります。
資金の貸し手は返済の優先順位が高いことから、低いリスクで貸し出すことができます。
また、仮に債務者の返済が滞ることがあれば、債権者は担保や保証を使った回収を優先的に行うことができます。
借り手のメリットは
●低い金利で資金を調達できること
低金利で調達できるということは、それだけ厳しい審査を通過しなければなりません。
そのため、借り手のデメリットは、
●審査に時間がかかる場合がある
●審査が通ったとしても希望通り融資を受けることができない場合がある
●シニアローンによるM&Aのプロセス
続いて、シニアローンによるM&Aのプロセスをご紹介します。
⑴インディケーションレターの作成
金融機関と秘密義務契約を結んだ後に、融資額や金利などの条件について交渉します。
⑵コミットメントレターの取得
融資の意思を示す書面のコミットメントレターを買手企業に提出します。
その後、融資の条件を交渉するために、融資金額や金利などを盛り込んだタームシートを作成します。
⑶ローン契約の締結
タームシートの作成後、正式的にシニアローン契約を結びます。
このシニアローンの締結と同時期にM&Aを契約することが一般的です。
⑷融資の実行
M&Aの契約が締結した後に、融資が行われます。
●シニアローンの事例:ソフトバンクの株式上場準備
2018年8月、通信会社大手のソフトバンクは、約1兆6000億円のシニアローンの借入を行い、親会社であるソフトバンクグループからの借入金を返済しました。
なぜグループ会社間の借入をシニアローンを用いて返済するのか疑問に思うかもしれません。
ソフトバンクの株式上場準備が背景にあります。
ソフトバンクの通信事業の一般国民に与える影響の重要性と経営の独立性を確保することを重視しました。それらを担保するためにシニアローンを活用したのです。
ブリッジローン
個人事業主や経営者が次に新規融資を受けるまでの限られた期間に限って行う融資をブリッジローンと言います。次のローンまでの橋渡しを意味します。
ブリッジローンは、通常の融資よりも高い金利を設定しています。
高い金利を支払うのであれば、銀行などの通常の融資を利用すべきと思うかもしれません。
しかし、多くの企業は今後手元に入る売掛け金などはあったとしても、実際の資金を持っていることはありません。
そのため、優良な不動産などがあった場合、一時的にブリッジローンを活用し、資金が手元に入り次第返済する手法をとります。
そんなブリッジローンのメリットは
●保証人をたてる必要がない
●多額の融資を短期間で受けることができる
一方でデメリットとして
●融資した資金の明確な目的が必要
●金利が比較的高い
●一括返済を求められるため、売掛金などの返済のめどを立てておくことが重要
ブリッジローンが活用されることが多い事例
●不動産の場合
大型ビルなどの大規模な不動産物件を購入したい
●企業内での場合
新しい機材やシステムを導入したい
●個人の場合
住宅ローンや建物建築着工代金の建て替え
ノンリコースローン
ノンリコースローンとは、買収対象会社の返済能力の基づいた資金調達の方法です。債務者はローンなどの返済に対する責任範囲を限定して融資を受けることができます。そのため債権者からの追求は債務者の人的責任に及ぶことはありません。そのことから、非遡及である「ノンリコース」と呼ばれます。
投資リスクを限定化したい企業やファンドであっても、ノンリコースローンを活用することで大型の資金調達を取り付けることができます。
ノンリコースローンは、特定の事業を対象に融資を行います。
借り手の返済原資は、責任財産からのキャッシュフローのみで、その範囲を超える返済の義務は負いません。ノンリコースローンは原則として保証人を必要としません。
新規にノンリコースローンを行いたい企業は、まず新規投資だけを行うためのSPC(特別目的会社)を設立。銀行はこのSPCに融資するという形式なります。
もし、今回の融資が失敗してしまったとしても、あくまで融資を行ったのはSPCになりますので、本業への影響を最小限にとどめることができます。
ノンリコースローンの金利は、一般的に通常の融資よりも高く設定されています。
高い利潤を得ることができることから金融機関にもメリットがある仕組みとなっています。
●ノンリコースローンの事例:ソフトバンクのボーダフォン買収
ソフトバンクは、2006年に当時の日本企業で過去最高の買収額となる約1兆7500億円でボーダフォンを買収。買収に伴う資金調達の融資の方法がノンリコースローンでした。
そのため、もしソフトバンクが調達した資金を返済できなくなったとしても、債権者はボーダフォンの資産とキャッシュフロー以外からは、返済を求めることはできません。
もちろん金融機関がリスクを抱えるため、ソフトバンクが支払う金利は高くなります。
しかし、この買収でソフトバンクのリスクマネーは、SPC(特別目的会社)に出資した2000億円のみとなります。つまり、ノンリコースローンで資金を調達したことで、負債の返済原資を完全に分離することに成功しました。
新会社が発行する普通株式は、ソフトバンクが出資する2000億円のみ。新会社の議決権を完全に確保するソフトバンクは、その後機動的な経営を展開していきました。
メザニンファイナンス
メザニンファイナンスは、シニアローンと普通株式の出資との中間に位置する資金調達の手法のことです。
リスク分担やリターンの取り方によってさまざまな仕組みが用意されていることが特徴です。
メザニンファイナンスは、多額の買収資金が必要な案件であったり、買収対象企業の成長やリスクに対する評価が難しい場合に用いられます。
メザニンファイナンスは、
●デット性の仕組み(債権型)
●エクイティ性の仕組み(株式型)
●混合型の仕組み
に分けることができます。
より具体的には、劣後ローン、劣後債、新株予約権付社債、優先株式といったものが活用されます。
●デット性の仕組み(債権型)の場合
デット性の仕組み(債権型で融資を受ける場合、返済期間はシニアローンよりも長く、一括で返済を求めらる場合が多いです。また、シニアローンが返済されるまで元本返済がないこともあります。
リスクの面からは、シニアローンよりもリスクが高いとされているため、それにともない金利も高く設定され、固定金利であることがほとんどです。
●エクイティ性の仕組み(株式型)の場合
エクイティ性の仕組みでは、デット性の仕組み(債権型)で支払う金利の代わりに配当金が支払われるものです。
●混合型の場合
混合型は、デット性の仕組み(債権型)とエクイティ性の仕組み(株式型)を組み合わせたモデルです。
M&Aが関わるローン制度まとめ
ここでは、M&Aに関するローン制度について解説しました。
多額の資金が必要なM&Aには金融機関などから融資を受けることが欠かせません。
自社のM&Aの形態に応じて、適切な融資を受けることが円滑な財務運用につながります。
どのようなローン制度があり、自社の実情はどのようになっているのか、見極めることが鍵となります。