
後継者不在の事業承継。M&A(エムアンドエー)を含めた3つの選択肢とは
中小企業庁が2017年に発表した「2017年版中小企業白書」によると、経営者の年齢のピークが1995年の47歳から2015年には66歳になるなど、高年齢化が進んでいます。
出典:中小企業庁「2017年版中小企業白書」
実際、後継者不在を原因として廃業するケースは少なくなく、経営者の高齢化が加速している昨今の現状を見ると、今後はより顕著になってくることが想定されます。
このような企業では、後継者が不在の場合どのような決断を下すべきなのでしょうか。
今回は経営者が選ぶべき3つの選択肢についてご紹介します。
目次
外部から後継者を招聘・育成する
従業員の中で時期経営者の候補がいない場合、外部から経営者候補を招聘する方法があげられます。
企業の将来を任せる上で業務経験があることから事業に精通している従業員が一番信頼できると思いますが、親族以外への事業承継には、後継者が安定して事業を継続できるだけの事業資金の準備も不可欠です。
親族経営の企業では実子に事業を引き継がせるケースが多いですが、これには業務経験や経営知識を積ませるのに時間がかかることが多く、早急な代替わりは経営リスクにも繋がります。
近年では、後継者候補がいない場合、取引先企業からの招聘や公的機関を利用する形で事業承継を行う企業も増えてきています。
取引先の企業や金融機関から招聘する
外部の人材を経営者として招聘することも事業承継を行う上で選択肢の1つとされています。
取引関係にある企業や金融機関の場合、自社の事業内容や経営状況を把握しやすく、比較的短期間での事業承継が可能です。
後継者バンクを活用する
人材マッチングの「後継者バンク」を活用することも手段の1つとしてあげられます。
公的支援機関でもある後継者バンクでは、事業者と企業のマッチングサービスを行っており、事業承継に関するアドバイスや情報提供、専門家の紹介など幅広く支援活動を行っています。
後継者の招聘にもメリット・デメリットがそれぞれある
比較的短時間で後継者を育成でき、事業承継までの期間が早くなりますが、外部から経営者候補を招聘にもメリット・デメリットがあります。
メリット:社風やしがらみにとらわれない
経営者の外部招聘は企業再生で特に有効とされています。後継者不足だけでなく、企業風土の改善や内部要因による経営不振の改善にも有効な手段となります。
大手企業の事例を見てみると、業績不振による経営者の入れ替わりがあった場合、経営再建に向けた抜本的な取り組みが求められます。
しかし、社風やしがらみにとらわれがちな従業員では、組織改編に直接踏み込めない場合も少なくはありません。
このような状況ですと外部招聘された経営者は、社風やしがらみにとらわれることなく経営改革を行いやすい立場ともいえます。
デメリット:社内で理解を得ることが難しい
その反面、社内より反発の声があがる場合もあります。
従業員からの反発が膨れると、経営改革に影響が出ることも考えれるので、招聘前には経営者候補の人柄も見るようにしましょう。
M&Aによる事業承継
M&Aは事業承継の問題を解決するための有効な手法です。吸収合併されることはあっても、長年培ってきたノウハウや従業員の雇用を確保できる面から、近年相談件数が増加傾向にあります。
M&Aによる事業承継のメリット
以下で、M&Aによる事業承継のメリットデメリットについて詳しく解説します。
メリット1:後継者候補の企業を外部から幅広く探せる
M&Aで第三者に売却をするということは、後継者を全国から幅広く探すことができるということです。
情報収集の面から考えて、仲介事業者の協力得ながら進めることが一般的です。
メリット2:創業者利潤を得ることができる
廃業といても、財務処理や在庫の処分費用などさまざなコストがかかります。
M&Aではそうしたコストがかからないだけでなく、売却することで資金を獲得することができます。
これを元手に新規事業を立ち上げることもできます。
メリット3:事業、従業員を守ることができる
会社は消滅してしまったとしても、M&Aを実施することで、これまでのノウハウや一緒に働いてくれた従業員の雇用を守ることにつながります。
M&Aによる事業承継のデメリット
M&Aによる事業承継には「時間と費用」、「理想と現実」が課題になることがあります。その詳細を確認していきましょう。
デメリット1:時間と費用がかかる
M&Aを実施したくても理想の相手がすぐにみつかるとは限りません。
また、見つかったとしても、これまでの会社の歴史や事業、社風などを理解してもらうこともM&Aを行う上で重要なことです。
そのため、なんども協議を重ねるなど、時間と費用がかかります。
もちろん、仲介役となったコンサルタントへの報酬も発生しますので、そうした点を幅広く考えることが必要です。
デメリット2:理想とのギャップが生じることは少なくない
経営者が長年培ってきた技術やノウハウ、社風は、その企業にとって大切な伝統です。
しかし、そうしたかけがえのないものがM&Aの買い手側にかならずしも十分に伝わる保証はありません。
買い手企業が同じような社内制度や業務フローを確保しているということはまずありません。
そうした細かなギャップを調整しなければ、M&Aで事業承継した後に、新しい企業体制に適応できずに辞める社員が出てくる可能性があります。
結果として、企業価値を下げてしまう危険性があります。
そのため、候補企業を慎重に探すことはもちろん、候補が見つかった後も、細かく打ち合わせ重ね、すり合わせを行いましょう。
そうしたことが事業や従業員を守ることにつながります。
廃業
大手調査会社の帝国データバンクによると、日本企業の66%以上が後継者が不在とされおり、中小企業庁が2017年に行った「事業承継・創業政策について」では、今後10年で70歳を超える経営者は245万人と推計されています。
後継者不足が普通のことになってしまっており、事業承継ではなく、「廃業」を選択する経営者は今後ますます増えてくるでしょう。
廃業する主な理由は
- 後継者の不在
- 事業承継の資金不足
- 経営者の体力的な問題(高齢化など)
があげられ、すでに毎年2万社以上の企業が廃業や休業を選択しているのが現状です。
廃業のデメリット
上記などを理由にどうすることもできずに廃業してしまうケースも多いですが、その際には次のデメリットがあることを頭に入れておきましょう。
- 従業員の解雇
- 取引企業との関係の消滅
- 低価格で資産売却の見積もりが行われる
廃業の手取り価格
廃業を決める前に、一度、手取り価格の違いを知っておきましょう。
手取り価格:事業承継の場合
M&Aで事業承継を行う場合、取引価格は一般的に利益の3~5年分とされています。
手取り価格:廃業の場合
不動産価値は半額程度で、建築物などは「資産価値なし」とされるケースも少なくありません。
在庫処分などの費用などを踏まえると、廃業は一定のコストがかかります。廃業を選択する場合は、数年間前から準備を始めることが欠かせません。
ただ、M&Aも候補企業が見つかるまでに時間がかかる場合が多いです。
親族内承継などのケースも念頭に置きつつ同時並行で作業を進め、やむを得ない場合に廃業を選択することが無難といえます。
事業継承3つの選択肢まとめ
今回は、後継者がいない場合に、経営者が選ぶべき3つの選択肢について解説しました。
廃業は、費用がかさむことが考えられるため、あくまで最後の手段。
外部から後継者を招聘したり、M&Aを活用するなど、さまざまな選択肢を踏まえながら、事前に検討・準備をすることが不可欠といえます。