
M&A(エムアンドエー)の資金調達方法は3種類。それぞれのメリットと注意点を解説
会社の規模に関わらず、M&A実には多額の資金を集めることが必要です。
一般的には、企業の資金集めのことを「資金調達」と呼び、これには大きく分けて3つの方法があります。
今回は、そんな資金調達の方法とM&Aに必要な費用の概要をご紹介します。
目次
M&Aで資金調達が必要な理由
M&Aには、デューデリジェンス(投資を行うことにあたり、投資先への価値やリスクなどの調査する行為)に対する報酬や仲介に関する定数寮などの経費や税金、取引に関する人件費、企業買収では必要な買収資金が必要です。
買収を希望する企業や事業が魅力的であったとしても、費用が高額であれば慎重に検討を進めることとなります。
本項では、M&Aにおいて必要になる多額の買収資金の調達方法をご紹介します。
買収費用
買収に伴う費用では、小規模のM&Aであっても50万円〜300万円は見積もっておく必要があります。
もちろん実施する内容などについては、アドバイザーと検討する必要がある項目のため、金額は変動します。
また、取引を実施する上で必要な人件費に加え、デューデリジェンスをする際に動く人員や、業務内容を定めておくことが好ましいです。
上記について、一定額を把握することが望ましいほか、小規模のM&Aの場合では支払い総額で買収額の5%〜8%内が相場と言われています。
税金
M&A実施後に発生する税金は、実施するスキームによって変化します。
例えば、株式譲渡と事業譲渡の場合では対価を受ける企業主体が異なることため、選択する譲渡方法で手取り額は変わります。
そして、法人課税では適格組織再編に該当するか否かを確認することが重要です。
株式譲渡の場合において、売却の資金を受け取った売り手企業の株主が課税対象となります。
株主が個人であれば、株式売却によって得た譲渡所得に所得税が課税されます。
事業譲渡のケースでは、売却の資金は売り手企業が受け取ることとなり、それに伴う利益は法人税の課税対象です。
また、組織再編については多くの場合、買い手企業の株式を売り手企業が受け取ることとなります。
組織再編が「税制適格要件」にあてはまるか否かで課される税金が変化することもあるため注意が必要です。
のれん代
企業を買収する際、企業の技術やブランド力に見合う費用が増額されることから、企業の純資産額が買収金額と同様になることはありません。
買収の総額と企業の純資産の差額を「のれん代」と言います。
のれん代は高額になるケースが多く、日本では複数年に分けて償却することが一般的です。
■チェックポイント
手元の資金を使う
M&Aを実施する際の資金調達は、手元の資金を使うことに加え融資を受けること、資金調達を実施することの3つに大別することができます。
M&Aを実施する上で、潤沢な内部留保をM&Aに投資する手段に活用するケースがあります。
手元の資金を使うことで、銀行借入によるリスク回避することができるほか、限られた範囲内で会社や事業の買収が可能です。
手元の資金を使うメリットとデメリット
利点としては、内部留保など現在ある預金の中から投資する資金であるほか、高額な費用がかかる投資ではなく、狙いを定めたエリアで堅実に実施する可能性が高まります。
リターンも限られたものとなりますが、今後の経営を図るうえで不要なリスクを避けることにもつながります。
注意点としては、内部留保を活用することで企業の資産が減り企業体力に影響与える可能性があるため、十分な検討が必要です。
■チェックポイント
融資を活用する
M&Aを実施する際に、買い手企業が銀行から資金融資を受けるケースがありますが、銀行は日常業務における運転資金だけではありません。
銀行の役割としては、こうした融資の他にM&Aに関するアドバイザリー業務を請け負っています。
アドバイザリー業務は財務アドバイザー、法務アドバイザー、財務アドバイザーに分けられます。
法務アドバイザーはM&Aの業務全般を取り扱い、法務は法務分野を、税務は税務分野をそれぞれ担当することが一般的です。
融資を活用するメリットとデメリット
M&Aは会社の支配権が他社に移行することから、銀行に相談することで会社の借入金の返済を迫ることが懸念点になる可能性があります。
しかし、銀行に経営者の意思決定を辞めさせるような影響力はありません。
例えば、その銀行の融資先が売却される場合であっても、その貸出金の回収の可能性を高めるために支援を強化してもらえます。
そのため、初期段階から銀行に相談することが重要です。
銀行の協力を得ることで、銀行のネットワークから買い手企業の情報をもらうこともあり、成約率も高まります。
一方で、デメリットもあります。
銀行は債権回収が重要であることから、融資先のM&Aに介入してより信用できる買い手への承継を求めます。
そのため、売り手企業の利益を犠牲にしてでも銀行の利益を求めて実施する傾向が高まります。
こうした買い手企業側の利益を優先させることがないよう、売り手企業側にも立つことができる税理士や公認会計士に相談またはアドバイザーとして就任してもらうことが重要です。
■チェックポイント
融資の活用例
本項では、手元の資金の活用事例をご紹介します。
条件は下記の通りです。
飲食店で急速な店舗拡大を図りたいA社は買収に向け、収益性が低く事業を手放したいB社をM&Aしたいと銀行に相談したケースで、買い手企業と売り手企業の経営状況は下記の通りです。
買い手企業A社
- 年商:1億6000万円
- 経常利益:200万円
- 減価償却費:600万円
売り手企業B社
- 年商:6000万円
- 償却前営業利益:300万円
- 売却金額:1500万円(店舗保証金500万円含む)
A社はB社を買収するための資金1500万円と運転資金500万円の2000万円の融資を申し込みました。
銀行の対応
銀行サイドはいままでのA社の下記のような実績を加味して融資を実施しています。
A社の実績と既存条件
- 店舗買収の実績があった
- 既存の売り上げをもとにした計画では新規出店よりも確実性が高い
- B社が原価や販売管理費で削減できる余地を示した
買収後のA社の見込みとしては、年商6000万円で償却前営業利益が640万円となり、満額の融資を受けることとなりました。
この事例は、事業拡大に向け、銀行と買い手、売り手企業双方の実情と今後の具体的な成長戦略を示したことで希望通りの融資を獲得しています。
増資(第三者割り増し増資)を活用する
第三者割り増し増資は、売り手企業が新しく株式を発行し、それを買収企業に引き受けてもらうことで融資を獲得する手法のことです。
増資を活用するメリットとデメリット
この第三者割り増し増資の買い手企業のメリットは、手続きが簡素で迅速にM&Aを実施することできることです。
そして、仮に売り手企業に欠損金があったとしても、買い手企業から生まれる利益を有効活用することができるため、節税対策にもなります。
一方で注意点としては、売り手企業に簿外債務が存在した際には、買い手企業が最終的に負担する必要があることや、のれん代については償却することができないため、節税のメリットが失われてしまうことです。
売り手企業のメリットは、買い手企業と同様にM&Aの手続きが簡素であること。そして、対外的に信用力の高い企業から出資を受けることで、売り手企業自体の信用力が高まることです。
今後の資金調達が容易になる可能性が高まります。注意点としては、完全な買収を希望する買い手企業には不向きとなることから、買収企業の選定をより限られた範囲内で行わなければならないことがあります。
増資の活用例
ここでは、高級イチゴ「BERRY」を手掛ける遊士屋株式会社を紹介します。
日本はイチゴの消費量は世界でもトップクラスで、生産技術も世界有数です。
その一方で技術革新が進まないことや生産者の高齢化などが業界の抱える課題でした。
同社はこれまでも国内での農園の開発や海外へプレミアムフルーツとして輸出販売を手掛けてきました。
今回の第三者割り増し増資によって、既存農園の生産設備を充実させ生産体制を拡充や生産規模の拡大、土壌の開発や改良、品種改良といった生産技術の研究を充実させる考えです。
旧態依然とした業界の中でさらに頭1つ抜けるために、第三者割当増資を行うことで、事業展開の加速を狙っている事例と言えます。
M&Aの資金調達方法まとめ
資金調達として、手元の資金を活用すること、融資を受けること、第三者割り増し増資などで資金調達を行う方法をご紹介しました。
いずれも利点や注意点があるので、M&Aを実施する際に、自分の企業の将来像を具体的に検討した上で、いずれの手法が適切が検討することが重要です。